
国際展開の「最初の一歩」で知っておきたいこと
こんにちは。Akuntsuの中村です。
この数年、私たちは日本と海外をまたいで、数多くのプロジェクトに関わってきました。アニメIPを使った展覧会、スポーツイベント、オーケストラコンサート、没入型体験…。私はモントリオールに移住して約15年になりますが、日本を離れたからこそ見えてくる、日本独自の美学や表現、企画力やストーリーの奥行きは、海外の演出とは異なる魅力を放っていると実感しています。
だからこそ、日本のコンテンツにはもっと海外で展開できるポテンシャルがあると確信しています。そして同時に、それを「海外にも届けたい」と思ったとき、最初の一歩が意外と難しいという現実も何度も目にしてきました。
今回の「Insights」では、「日本のエンタメを世界に展開したい」と考えている方に向けて、私たちの現場での経験や視点をもとに、実践的なヒントをお届けします。
あくまでも第一弾の投稿ですが、今後も情報を共有していければと思っています。
なぜ、いま海外なのか?
最近、日本国内でも「海外に出たい」という相談が増えています。
その背景には、次のような流れがあります:
円安による外貨収入の魅力
為替の影響で、海外で得た収益を日本円に換算したときの収益性が高まり、外貨収入のメリットが大きくなっています。国内市場の縮小
人口減少、イベントの乱立、消費傾向の変化により、「強いIPを使えば動員できる」という時代は終わりつつあります。新たな収益モデルの必要性
IPやブランドの価値を最大限に引き出すためには、国際展開による新たなレベニューストリームの開拓が必要です。
日本と海外では、企画の前提が違う
同じ「ライブエンタメ」でも、日本と海外では企画の立て方・価値基準・目的が大きく異なります。たとえば…
投資と回収スパンの違い
海外では「何都市でツアー展開するか」を前提に投資が組まれ、長期的なROIを見据えた設計が一般的。一方、日本では「1会場で収支が合うか」が判断基準になりがちです。体験演出の方向性
海外の没入体験は「SNS映え」や「身体性・インタラクション」が重視されるのに対し、日本は物語性や感情的な深さが評価される傾向があります。ただし、その演出方法が静的・簡素になりがちで、海外マーケットの期待値とギャップが生まれます。IP運用に対する姿勢
海外のIPホルダーは、体験型コンテンツやLBE(Location-Based Entertainment)を通じてファンエンゲージメントを高め、事業全体の成長につなげる姿勢があり、企画イニシアティブにも前向きです。一方、日本ではIP保護を重視するあまり、承認プロセスが複雑化し、スピード感や柔軟性に欠ける場面もあります。
日本のコンテンツは、そのままでは海外で通用しにくい?
結論から言えば、そのままでは難しいことが多いのが現実です。
チケット価格の壁
日本では平均2,000〜3,000円で販売される展示も、海外では4,000〜6,000円($30〜$50)が一般的。その価格差を正当化するだけの演出や体験設計が必要です。
また、海外プロモーターにとっては集客と収支が合うことが絶対条件となるため、「没入性」や「差別化された演出」がなければ、最初の交渉すら難航することもあります。
ターンキーパッケージ不足
海外プロモーターは、「すぐに導入できるパッケージ」(=ターンキー)を求めます。企画だけが存在し、制作やオペレーションをすべて現地に任せる形では、コスト・リスクともに高く、導入のハードルが上がってしまいます。価値観の違い
日本のプロダクションは「IP忠実性」や「ファン満足度の最大化」に重点を置きます。一方で、海外の主催者は「投資回収」や「マーケット拡大」を最優先に考えるため、このズレが意思決定の壁になります。
国際展開で成功するためのヒント
それでも、越えられない壁ではありません。
むしろ、長期的に国際展開を事業に組み込むなら、以下のような備えが不可欠です。
IPホルダーの理解と協力
意思決定プロセスの簡素化、ブランドガイドラインの整備、多言語対応の準備などが、海外パートナーの信頼を得るうえで非常に重要です。海外向けの専用チーム体制
「担当者が決まっている」だけで、海外プロモーターの反応がまったく変わります。スピーディかつ柔軟に動ける窓口があるとベストです。ターンキー前提の設計
最初から「輸出できる設計」にしておくことが大切です。物理的な仕様だけでなく、契約フロー・運用体制・ライセンス管理の整備まで含めて準備しましょう。
最後に
日本のカルチャーやコンテンツには、世界に誇れる魅力がたくさんあります。
でも、それを本当に世界へ届けるには、国内の成功体験や常識とは違う「考え方のアップデート」が必要になる場面が必ず出てきます。
逆に言えば、しっかりと準備をして、よい現地パートナーと出会えれば、越えられない壁はありません。
私たちAkuntsuも、その橋渡し役としてこれからも挑戦を続けていきます。
「うちのコンテンツ、海外で通用するかな?」
「実際に何から始めたらいい?」
そんな疑問があれば、いつでも気軽にご相談ください。